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ストレッチャブルデバイスとAIを統合した動作認識スマートシステムを開発 〜柔軟エレクトロニクスと先進情報技術による新たな可能性〜
- これまでストレッチャブルデバイスは、データの計測精度や再現性に問題があり、人工知能(AI)との統合が難しかった。
- 本研究では、柔軟なストレッチャブルデバイスに硬質な集積回路(IC)を組み込んだ「ストレッチャブルハイブリッドデバイス」を開発し、AIと統合した動作認識スマートシステムを実現した。
- 柔軟エレクトロニクスと先進情報技術を統合した新たなシステムの開拓につながることが期待される。
研究概要
横浜国立大学 大学院工学研究院の太田 裕貴 准教授らの研究グループは、ストレッチャブルデバイス(※1)とAI(※2)を統合した柔軟な動作認識スマートシステムを開発しました。
柔軟性や伸縮性を持つストレッチャブルデバイスは、人体などの柔らかな面や大きく変形する対象にも密着させることができる次世代のウェアラブルデバイスです。このストレッチャブルデバイスとAI技術を統合することで、デバイスから得られたデータを解釈して意味を見出す高度な知的システムが実現できると期待されています。一方で既存のストレッチャブルデバイスの出力データは不安定でAIとの統合に必要な高い再現性が担保できませんでした。このため、高いデータ再現性を有するストレッチャブルデバイスとAI技術との統合システムの開発が望まれていました。
本研究グループは、硬質なICにゴムのような高い柔軟性を有する基板と液体金属配線を組み合わせて、高いデータの再現性を両立できる「ストレッチャブルハイブリッドデバイス」を実現しました。このデバイスから得たデータをAIによって分類することで、10種類の結び目の形状、空中に書いた26種類のアルファベット、65種類の手話の単語をそれぞれ87 %、98 %、96 %の正答率で分類することに成功しました。
これにより柔軟デバイスに既存の硬質センサと同等の計測能力を与え、AI技術に統合することが可能になるため、柔軟エレクトロニクスと先進情報技術の統合による新たな知的システムの実現につながることが期待されます。
本研究は、GMOペパボ株式会社でインターネットに関する新技術の創造と実践に取り組む研究開発組織 「ペパボ研究所」の栗林健太郎 取締役CTOらの研究グループと共同で行いました。
本研究成果は、2024年8月7日(米国東部時間)にCell姉妹誌である「Device」のオンライン版で公開されました。本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「AIP加速課題」(課題番号:JPMJCR22U2)および文部科学省科学研究費助成事業「学術変革領域研究(B)」(課題番号:24H00890)の支援により実施されました。
研究の背景
近年、伸縮性を持つゴム材料や導電性材料を用いたストレッチャブルエレクトロニクス分野の研究が広く進められてきました。今後は、デバイスレベルで開発が進められてきたこれらの技術を、社会実装に向けてさらに高度なシステムに昇華させることが期待されています。そのため、デバイスから得られたデータを解釈する手法として、大量のデータからコンピュータがパターンを見出すAI技術が注目されています。一方で伸縮可能なストレッチャブルセンサは、繰り返し使用による劣化や個体差により測定結果が大きく変動することが課題となり、データの再現性が重要であるAI分野との統合はこれまで進められてきませんでした。
研究成果
太田准教授らの研究グループは、液体金属を用いた伸びる電気回路と、柔軟性が部位によって異なる基板を用いて、既存の硬質な回路素子を柔軟なデバイスに組み込む技術を開発しました(図1)。この技術により、デバイスを2.5倍の長さまで伸ばした際も硬質な慣性センサICと同等のデータ計測精度・再現性を有するストレッチャブルハイブリッドデバイスを実現しました(図2)。
さらにこのデバイスを用いて、人がひもを結ぶ際の動き、空中に文字を書いた際の手の動き、手話を行った時の手の動きのデータを収集し、AI技術の一種である教師あり学習(※3)によって分類を行いました(図3)。その結果、動作のパターンから10種類の結び目の形状、空中に筆記した26種類のアルファベット、65種類のアメリカ手話の単語についてそれぞれ87 %、98 %、96 %の正答率で分類することに成功しました(図4)。
今後の展開
本研究により、既存の硬質センサと同等の計測能力を有する柔軟デバイスを開発しました。また、こうした高性能な柔軟デバイスをAI技術と統合することで、動作認識のような知的システムが実現可能であると立証しました。これにより、既存の様々なセンサを組み込んだ高性能ストレッチャブルデバイスが開発されることが期待されます。また、ストレッチャブルエレクトロニクスが主なターゲットとする生体は、動作分析や音声認識、健康状態推測などAI技術によるデータ解析が活用しやすい対象です。本研究の成果を活用し、柔軟エレクトロニクスと先進情報技術を統合することで、動作認識に限らない新たな知的システムの実現につながることが期待されます。